シャルの心の端書き置き場

短くは書けないそんなあれこれを

京都寺町三条のホームズシリーズの既刊を読み終えての感想

 今回は僕が「京都寺町三条のホームズ」を読み始めてはや、3日が経ち既刊の全巻を読み終えましたので、その感想でも徒然なる晩に書いてみることにします。

 

 今回は強烈なネタバレを含みますので、読まれる際にはそれなりの覚悟をお決めになってくださいね

 

 では、僕の感想の前に好きなフレーズの引用から。

「すべての音が消えて、心臓の音だけが体中に響く。
 鼻先が触れ合うような距離まで顔が近付いたかと思うと、ホームズさんは」……
 ええ、葵ちゃんは自身の清貴さんへの想いを4巻の第3章『後継者の条件』で自覚し、正面から清貴さんへの好きという感情へと向かい合い、終に両者の想いを認め合ったということなんですよ。

 長かった。本当に長かった。1巻から素直で純情な葵ちゃんと鋭い観察眼で人の内面を見抜く清貴さんの相性は良いのだから、自然と惹かれ合ってすぐにくっついてしまうのではないか、なんて思っていたんですよ。しかしお互いにお互いのことが気になりだしてからというもの、二人の過去にそれぞれ存在する苦い失恋の記憶は両者の共に関係の進展を許しはしなくて、勇み足になりはしないかと勘違いを恐れ自らを厳しく戒めるのです。その自戒が強すぎるあまり、二人が出逢ってから暦が一周するまで付き合うことは叶わなかったのです。読者は二人の感情に触れられますから、傍目八目といったところで自分の感情を安易に恋と断ずることが出来ない二人にもどかしさを覚えつつも応援したくなるように書かれているのです。

 ホームズさんが次第に葵ちゃんに対して特別視していることを匂わせるようになるあたりで、僕の胸はときめいていました。しかし、一線を引くと決めてしまいホームズさんに対する恋のようなときめきを、ホームズさんが紳士だから皆に同じように振る舞うという理由で心の奥底に仕舞い込むことに決めた葵ちゃんは正に難攻不落の城となり、ホームズさんの真心がなかなか伝わらないことに僕はヤキモキしていました。ホームズさんが葵ちゃんに感情をまたしても伝えらない度に落ち込むんですが、僕は内心でもう少し攻められたら、と思ってしまうんです。勿論、そのようなことは過去に壮絶な失恋をしている二人に求めることはあまり酷で、想いが伝わらないことでより僕は二人の関係の危うさと美しさにより魅了されていきました。

 

 ネタバレ終了


 そうですね、ここまで只管に感想を述べたところで僕の心の中身に移りましょうか。僕は、恋と呼ぶにはあまりにも根拠が足りない、漠然とした好意が違う形に変化しそうになっている感情をここ最近、ある方に抱いています。「京都寺町三条のホームズ」の言葉を借りるなら『「もしかしたら、あなたのことが好きなのかもしれません」と言いかけ』るくらいですね。僕は中高と共学ではなかったことですっかり異性に対する免疫を失い、もともと小学生の僕の異性に対する感情は非常に幼いものでしたし、近頃は人からの優しさすらどう受け取って良いのかわからないほどです。どう、話しかけたら良いのかわからないんですよね。僕には深い知識を持つわけでも優れた記憶力を持つわけでもなく、況してや人の心を見抜く観察眼を持ち合わせん乎と言ったところで、僕自身の感情にも始末がつけられません。きっとこの感情が恋に変化することはなく、次第にその方とは疎遠となっていくのでしょう。そう考えるととても悲しいものです。もともと距離が近い訳でもありませんし、顔も声も知らないですしね。それでも胸が締め付けられて苦しくなるような感じです。僕の恋は始まる前に終わるんです。大丈夫です、きっと時間がその傷をゆっくりと解かして小さな古傷にするんです。

 

 しのぶれど 色に出でにけり わが恋は 物や思ふと 人の問ふまで


 今回はここまで。恋ではなく思ひと書きたいところですが、平兼盛の詠をそのまま引用したかったので。是非また次回も、これを読んでくださった貴方にお会いすることが出来ることを願って。コメントも戴いてみたいですね、いつか。

 静かなリビングで一人、夜中にひっそりと綴る。