シャルの心の端書き置き場

短くは書けないそんなあれこれを

人はいさ 心もしらず ふるさとは……

 こんにちは、シャルです。お久しぶりです。本を買っては中途で投げを繰り返してあっという間にふた月も時が経てしまいました。僕がこの文章を書いているのは二月二十三日で、ついこの前立春を過ぎ春一番が吹いたと思ったら、急に寒さがぶり返したり風が強くなったりで身体が弱い人もそうでない人でも体調を崩してしまいそうな日々の中の一日です。どうか皆様、お体ご自愛くださいませ。

 さて、今回もどなたか読まれるのか、果たして元通り僕の自己満足の公開へとなるのか、読んだ本から連想された僕の想いを書き付けるとしましょう。僕が読んだ本は「喫茶ルパンで秘密の会議」(SKYHIGH文庫)です。

 さらりとあらすじを述べますと、ある家に泥棒が入り金目の物と一緒にオルゴールが盗み出します。そのオルゴールの持ち主である老婆の孫娘と友人で喫茶店の次期経営者として見習いする専門学校に通う女子学生が、喫茶店に入り浸りの人気小説家と共にオルゴールに秘められた想いを紐解きながら事件を解決に導くという小説です。凝ったトリックはないです、その代わり心理描写が丁寧です。

 ええ、そうです。書店で平積みされていた本の『喫茶』という文字だけを見つけて買いました。珈琲への拘りや描写は少なかったですが、珈琲が気になるならそろそろ専門書でも買うことにします。

 ところでオルゴール、僕も一つだけ持ってます。自分で彫った木で出来た箱に収められていて小学校の校歌が流れるようになっています。僕の場合、小学校への思い出が残っていると格好付けるような記憶もないので割愛しますけどそれなりに楽しみました。勉強ばかりしていた気がしますが。

 一人なのに、すぐお話が脇道に逸れてしまう。僕が読んだこの小説でのオルゴールには秘められた二人に見えるかもしれない、実際にはもっと多くの、言ってしまえば登場人物全員の感情が小さな箱の中に大切に仕舞われています。お互いがお互いを想いながら戦後直後の復興期故に結婚の自由などあるわけもなく、想いの一切を押し殺しオルゴールを作りあげ女性の結婚前日に贈った不器用な男性と、それを貰い受け同じく一切の想いを押し殺し意中の男性に会うことを止め別の男性の元へ嫁いだ女性の若かりし二人の記憶。お互いの心情を慮りながら後押ししたり、立場によって出来なかったりした周囲の人間の歯痒さ、後悔や寂しさも感情ももちろん。しかし、オルゴールの贈り手は想いを秘めると先ほど僕は申し上げましたが一つだけ想いの痕跡をオルゴールの曲に残すのです。その曲とは"Je te veux"貴方が欲しい、貴方が好きです、と訳されるそうです。この想いをストレートに表現せずに曲名に託す心情、僕も似たようなことをしたことがあるのでその心情たるや、僕には察して余りあります。相手を想う深さや直接好意を相手に告げてしまうことによって、相手に答えを強いることを恐れ、答えを期待しつつも答えなくても良い形にする思いやりです。その点、僕はしっかり否、という答えを戴いたので幸せですね。しかしこのオルゴールの曲名に託された想いはオルゴールが盗まれるに至るまでついぞ五十五年もの間、相手の女性にはもちろん誰にも気付かれることはないのですが。

 手先が器用だが不器用であったオルゴールの製作者は自身の恋慕を胸の内に留めておくことを誓いながら、思いの跡を一つだけオルゴールに忍ばせておきました。狂おしいほどの恋慕は秘めていた方が良いのか、それともまた違ったやり方で告げたら少しは異なる展開になったのか。僕に人から好かれるような良さがあるのであれば、それをアピールしたりすれば良かったのに、却って行動を先走り自ら手足を伸ばし人に触るるを恐れるようになったと結果を今も悔いたりします。何と僕は愚かな、急いては事を仕損じるという教訓を痛い形で教わりました。僕にとっては失敗が許されない久方ぶりの他人に対する心情であったのに。

 そうそう。何故恋はしないと十年以上も前から言ってた僕が最近想いに振り回されているか。率直に申し上げますと、僕にもよく分からないですがたぶん、FFを始めてから幸せそうな仲の良い恋人同士の話を見聞きするようになったからですかね。他人と同じ空間で生きてて楽しいことばかりなはずはないとは思いますが、一人より良かったなんてこともあるらしいと知りました。確かに、好きな人に面白かったこと楽しかったこと嫌だったこと、何でも報告して感想をもらえるって考えることをだに幸せそうですね。

 あぁ、長い!今回はちょっと書きすぎました。もし、久しぶりではないか、なんて最後まで読まれた方がいらっしゃるならありがとうございます。文章で人に感情を想起させるように書けるようになりたいものです。それでは、皆様にまたいつかどこかでお会いできることを願っております。

 

P.S. タイトルは小倉百人一首にも選ばれた紀貫之の一首です。本当は違う歌が本を読み終えた時に脳裏に浮かんだのですが、それは好きな人にだけ知っていて欲しい歌なので違うものをあげました。ごめんなさいね。